有名ブランドの広告に映画製作者が起用される理由

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現在、4年目を迎えたトライベッカ映画祭では、広告と物語を掛け合わせた表現を表彰する“Tribeca X Award”が設けられています。これまでの同賞は、ブランドが後援するコンテンツの中から優れた作品に贈られていましたが、今年は4つの部門で表彰が行われることになりました、映画、短編映画、シリーズ作品、VR作品の4部門です。

さらに、“Tribeca X: A Day of Conversations”が始まりました。4月26日に行われたこの企画では、クリエイティブと業界のプロたちが集まって基調講演とブランド・コンテンツに関するパネルディスカッションを行います。

「映画の分野には、私たちとはまったく違うクリエイティブな視点があります。広告でこれまでに見たことのないクリエイティブの革新が起きようとしています」と述べるのは、P&Gのチーフ・ブランドオフィサーを務めるマーク・プリチャード(Mark Pritchard)です。

Patagoniaの創設者であり、Tribeca Xの最終選考に残った「Artifishal: The Road to Extinction is Paved With Good Intentions」のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたイヴォン・チューイナード(Yvon Chouinard)は、ドキュメンタリーでお金を稼ぐことはできないが、映画は「人々の感情を呼び起こす最良の方法だ」と説明しています。

ストーリーテリングで関心を得たいマーケターにとって、視聴者をコンテンツに継続して惹きつけることができる、感情に訴える手法が特に重要視されています。注意力の持続時間が減少するとともに広告の尺が短くなるなか、長いコンテンツで仕掛けようというのは、一見矛盾しているように思えるかもしれません。しかし、ストーリーには深みがあるものです。

「消費者の感情と繋がれば、時間をかけてストーリーを見てもらえるようになります」と述べるのは、飲料会社Anheuser-Buschでプレミアム/スーパープレミアムマーケティングの副社長を務めるピーター・ヴァン・オーバーストレーテン(Peter Van Overstraeten)です。

感情的に訴えるストーリーの一例として、Tribeca X Awardのシリーズ作品部門を勝ち抜いたHPの「History of Memory」があります。同シリーズ作品を構成する4つの短いドキュメンタリーは、プリントした写真に人生を変えるほどの力があることを描いています。

HPでブランド・ジャーナリズムを率いるアンゲラ・マツシク(Angela Matusik)は次のように述べています。「誰にでも、自分に影響を与えた写真があるものです。そのことを掘り下げているのが、このシリーズ作品です」 「私たちのブランドは技術でより良い世界を目指すことをミッションとして掲げているので、ブランドの発信するストーリーも、そうした内容であることが求められます。映像作品は、特にそうですね」

HPのブランド・ジャーナリズム部は、新たにジャーナリズムの品質と倫理を踏まえてストーリーを発信することに注力しています。「私たちは世界レベルのストーリー表現を取り入れることで、視聴者とのコミュニケーションの在り方を変えていくことができると考えています。だからこそその道に長けた素晴らしいアーティストを起用しているのです。感情的に人とつながることに関して、彼らは達人ですから」とマツシクはAdweekに語っています。

一方でこのような戦略変化には、まったく異なるアプローチが求められます。「台本を書くわけでもないですし、大手の広告代理店を使うわけでもありません。役者が有名なわけでもありません。視聴者の興味を引こうとしてきたこれまでの広告の手法とは違うかもしれませんが、だからこそ心に響く人がいるんじゃないかと考えています。見た瞬間に反応してしまうもの。感情が揺さぶられるものを目指しています」

こうしたコンテンツの必要性は、買い物に意味や価値を求めるようになっている消費者の変化から生じていると、マツシクは説明します。「今回のシリーズ作品を見て、重要な意味や価値を持っている写真を自分も持っているとおっしゃってくれる人たちがたくさんいました。こういう感情的な反応がすぐに起こるのは、時間をかけてストーリーを表現しているからだと思います」

大抵の場合、こうした施策は従来の評価基準で計測することができません。しかし、リーチやエンゲージといった典型的な基準に加えて、実際に行動を起こしてもらう機会を設けることで、影響力の計測をより具体的なものにすることができます。例えば署名運動に参加する、問題の認知を広げる、非営利活動に寄付するなど、視聴者が実際に参加できる具体的な活動を用意することで、単なるCMにとどまらない施策が可能となるのです。

HPの場合では、データ企業のKnotchと共同でアンケートを行い、シリーズ作品を見た直後の視聴者に回答してもらっています。「ブランドにとって大切なのは、発信したストーリーによる影響を計測できるようにして、長い目で成果を上げることです」とマツシクは説明します。

同様の施策を考えているマーケターに対し、マツシクは次のようなアドバイスを挙げています。「まずは『視聴者の時間を大切に考えているか?』 『有意義なもの、見る価値のあるものを提供できているか?』と自問することです」

では、そのためにどうすればいいのでしょうか? マツシクは、ストーリーの構成をはっきりさせることが大事だと説明します。「ドキュメンタリーではありますが、そこには始まりがあって、中盤があって、終わりがあります。そうすることで、効果的に感情を揺さぶることができます」。ほかにも、目標を明確にして、それを基準に作家を探すようにすることも大切であると語ってくれました。

「クリエイティブな作家とブランドによる制作は、今、とても刺激的だと思います」

※この記事は、ニック・ガードナー(Nick Gardner)がAdweekで執筆しました。パブリッシャーネットワークを行うNewsCredを通じてライセンスされています。ライセンスに関するご質問は、legal@newscred.comへ直接ご連絡ください。

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