
懐かしさで消費者の心を刺激する方法
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どんなものに懐かしさを感じますか? 香り、歌、食べ物、おもちゃ、もしくはシンプルなロゴに懐かしさを感じるという人もいるかもしれません。懐かしさを感じるものがあると、昔の記憶がよみがえり、その特別で深みのある思い出とつながることで、以前の自分に戻ったかのような気分になります。懐かしさを感じるものは人によって違いますが、懐かしさの持つ力は変わりません。それにもかかわらず、この力はマーケターから見過ごされてきました。
著名な心理学者のクレイ・ルートレッジ(Clay Routledge)とティム・ヴィルトシュット(Tim Wildschut)による研究では、懐かしさを体験した人は、一緒にぬくもりと一体感も覚えたと記録されています。さらに、こうした感覚から自分自身について楽観的で前向きな気持ちになれたことも記録されています。ヴィルトシュットは、懐かしさが「人間の根源的な強みとして現れている」と述べています。
懐かしさを重視したキャンペーンが登場し、影響力の強い広告として市場に浸透しつつあります。現在、X世代や初期ミレニアル世代が労働人口の70%を占めています。Netflixはそうした層を対象にして、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン3発表時に、感情を刺激するキャンペーンを複数のブランドとともに実施しました。
80年代ポップカルチャーの要素が満載の同番組は、すさまじい成功を収めています。そのことからも、35歳以降の視聴者に懐かしさを感じさせる魅力と紛れもない力が明らかにされています。視聴者は番組を見ながら、80年代に過ごした子供時代を彷彿とさせる舞台を味わっているのです。
番組の制作者や脚本家は、現在の“懐かしい”がかつての日常だった時代へ視聴者を連れ戻す世界を見事に作り上げました。当時はショッピングモールが人気の絶頂にあり、Sam Goody、Fashion Bug、Jazzercise、Orange Juliusといった店舗も同様に人気でした。『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は冷戦中の1980年代のアメリカという魅惑の世界を表現して、新たな視聴者を獲得しているわけですが、最も楽しんでいるのはX世代だといって間違いないでしょう。彼らは、あまりにも的確に描写される自分たちの子供時代の様子を楽しんでいるのです。ネタバレになってしまいますが、ルーカスとマイクと同様、私と友人も新しい“甘口”コーラが通常のコーラよりもおいしいかどうかで口論をしたことがあります。ホッパーの正装である『私立探偵マグナム』に感化されたアロハシャツとブレザーについては、個人的に今年のファッショントレンドになると思っています。
私もこの番組を見て自分の若いころを思い出し、懐かしさを重視した内容に夢中になっている1人の視聴者です。ですから、この流れに続いてマーケターが新製品の発売で同番組を広告手段として活用するようになっていることも、不思議ではありません。今シーズンにあたって、複数のブランドがキャンペーンを行っています。Burger Kingが発表した“逆さまワッパー”、H&MとNetflixの共同による同番組をもとにした新しいアパレル製品、そしてCoca-Colaの販売している数量限定の“新しいコーラ”缶です。
適切な状況で適切な消費者へ適切な時期に正しく広告を打てば、ブランドにとって効果的で記憶に残る体験が生まれます。この“懐かしさ効果”を実践したマーケターは、商品棚から広告にいたるまで、そのキャンペーンで成果を上げています。
Walmartも2019年のスーパーボウルのCMで懐かしさを利用し、往年の映画やテレビ番組を起用した車を使って宅配サービスの宣伝をしました。その広告はファンのお気に入りになり、初回放送からすぐにYouTubeで10,000件を超える賞賛コメントを獲得しました。
YouTubeはX世代が懐かしさを味わえる格好の場所となっています。リサーチ会社IPSOSは『Think With Google』の記事で、X世代の大半が懐かしい体験を待ち望んでいるだけでなく、自ら積極的に探している、としています。
現在、テクノロジーの広告の多くでは、プライバシーに関する消費者の心配を解決することが注目されています。クッキー利用の今後については不明点があまりにも多く、インターネットメディアはオーディエンスのターゲティング方法の見直しを迫られています。そうしたなかでブランドの価値を促進して信頼を築く方法となるのが、懐かしさなのです。
ちょうどダスティンとスージーの強く特別な絆と同じように、私たちと懐かしさの関係もいつまでも続いていくように感じられます。自分たちの生活を送るなかでさまざまな記憶を思い出すことがありますが、まれに本当に印象的な記憶を思い出すことがあります。楽しかった場面や嬉しかった場面を思い返して追体験してしまうほどのつながりが、そこには存在します。それが、懐かしさの持つ力なのです。
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※この記事は、クリス・キューン(Chris Keune)がAdweekで執筆しました。パブリッシャーネットワークを行うNewsCredを通じてライセンスされています。ライセンスに関するご質問は、legal@newscred.comへ直接ご連絡ください。